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コラム堀内一三

~粥川善洋の四方山コラム~

7月15日(土) 第四の反復  -音楽 - 歌謡曲-

c772.jpg YMOカヴァーバンド 中国男 l'homme chioisの第四回公演を行う。今回はバンマスの私が多忙だったため演奏内容の確認に基づく駄目出しも殆ど行えず如何にアバウトに鑑賞可能な水準に漕ぎ着けるかが課題となった感があり、それ自体は案ずるより産むが易しだったと言えようが、寧ろ各人が細心の注意を払って音の隙間を埋めていった新課題曲の「Firecracker」と「G.T.」の出来が悪くなかったのに対し、再演の6曲にマンネリズムが漂い「バンドとしての音が形成された瞬間の震え」という感覚が訪れなかったのが誤算であった。YMOコピーバンドに多いシーケンサー主体の演奏なら兎も角、手弾きが売りの当方では煩雑にレパートリーを増殖させることは叶わない。それでも「The End of Asia」は79年ライブ版から80年国内ツアー版の超速バージョンに改編、YMO本体~教授版~再生YMO時のメドレー形式だった「Behind The Mask」はオリジナル盤準拠になど随所にリアレンジを施してはいるものの、冒頭の「雷電」と〆めの「東風」は四公演出ずっぱりで飽きるなという方が無理だろう。
 同時に認知度の高い曲は必ずしも演奏して楽しい曲とは限らないというジレンマに加え、今回はYMO楽曲中No.2ヒットの「TECHNOPOLIS」をカットしているため、恐らく40歳前後と見られる他バンド・観客層に鑑みれば矢野顕子の「春咲小紅」こそ認識されようが一般受けを想定した内容とは言い難い。ただそれは定番の反省材料に他ならならず、前回初の対バン形式を経て痛感させられたのは事実だが、半ばこの前提は織り込み済みの様相を呈していた。

c773.jpg その諦観は出演五者のうち冒頭の中国女の撤収・搬出が終了し客席に居を据えた時分に丁度登壇した第三バンドにより脆くも打ち破られる。歌謡曲のカヴァーというコンセプト自体希少な上、70年代後半ヒット曲集という客層を踏まえた選曲には兜を脱いだ。この日のための特別編成なので演奏は完璧とは言い難かったが、バンドスコアなどある筈もないのでメンバー各人が原曲ではキーボードの音も違和感無くギターに置き換え適宜演奏箇所を検討し、それを持ち寄り調整するという手法は一定以上の音楽能力が必要とされよう。しかしながら何よりも賞賛に値する、というよりも非常に羨ましかったのはその演奏を見ていて非常に楽しそうだったのである。
 この歌謡曲バンドには中国男のドラマーでもあるHa氏が再び太鼓を叩き、驚く無かれ氏はトリのメインエベンターではキーボーディストとして現れ、エンターテインメント性溢れる演奏を披露していた。会場は然ながら氏の御成婚披露宴の様相を呈し、その意味ではわが中国男も前座で出演した甲斐があったのだが、発音の確実性と音の切り替えに忙殺され鍵盤と睨めっこに終始せざるを得ないわが方の操演にも完成された時のそれなりのカタルシスがあるとはいえ、彼我の大きな差に愕然とせざるを得なかった。
 「人間の証明のテーマ」「Shadow City」といった楽曲が殊更に私の琴線に触れたためもあろうが、今後は過大なセッティング時間の短縮とその前提となる楽器の軽量化は勿論、演奏の賦課を下げ自由度を増すために音数を如何に鋤いていくかも課題となろう。一方でYMOフリーク層の潜在市場を掘り起こしニッチ市場として進化させるのか、YMO周辺曲に対象を広げ大衆受け要素を倍加させていくのか、その方向性も模索を続けなければならない。多数宿阿を残す第四回公演となったがまずはいい加減着古してしなしなとしてきた人民服の更新から着手しようか。